甲田まひる、ハタチ。その実年齢を鑑みれば驚かされるが彼女はジャズピアニストとしてすでに長いキャリアを積んでおり、この夏には各方面で高い評価を受けているSF要素も盛り込まれた青春映画『サマーフィルムにのって』(松本壮史監督)に出演し、俳優としても活動している。また小学6年のときにInstagramを使い始め、ファッションジャーナリストとして著名なミーシャ・ジャネットにフックアップされるなどして多くのフォロワーを獲得。早くからファッションブロガーとしても注目を集め、ジャズピアニストとは別の顔である“Mappy”はファッションシーンに広く知られるアイコンでもある。そして、11月5日にシンガーソングライターとして1st DIGITAL EP『California』を全世界にシェアする──。
こうして劇的なまでに多面的なトピックを並べると、甲田まひるのそれは誰かに作られたものではないか?と裏読みする人もいるかもしれない。しかし、これらすべては彼女が自分の意思で選びつかみとったものである。
この1年半、揺るぎなく大きな理想像を手がかかりに試行錯誤しながらデモ制作を重ねている中で、本作『California』に収録されているM1の表題曲とM2“Love My Distance”が生まれた。終始ダークな気配が漂う“California”は、まるで組曲のようにめくるめく展開の中でヒップホップとロック、K-POPのニュアンスも含まれるポップスの要素が真新しい感触を帯びながら融合している。フックのメロディは突き抜けてキャッチーで、あるいはジャンルの記号性や規則性に束縛されていない自由でありながら解像度の高いこの音楽像からは、甲田まひるのルーツであるビバップとの相関性を見いだせるかもしれない。その流れから言及すると、M3の“California.pf”では彼女のピアノ独奏が聴ける。“California”のみならず“Love My Distance”でもドープな中毒性と快楽性に富んだビートと音像には、まさしくGiorgio Blaise Givvnのシグネイチャーがくっきりと刻印されている。M4の“California_ demo@201113”により顕著だが、マンブルラップを彷彿させる甲田のフロウはすでにナチュラルに馴染んでいるのも印象的だ。
「2曲とも全部理論立ててピアノで作っているから、すべて楽譜に起こせます。ポップスのコードは一回も勉強したことがないんですけど、絶対音感させあれば浮かんだメロにコードを当てることはいくらでもできるから。J-POPにしようと思えばJ-POPっぽいサビを作れるんですね。ドラムパターンも私自身が打ち込んだものです。“California”の歌詞は〈I was born in California〉という歌い出しが最初のデモからあって。それは単に私がカリフォルニア好きというフィーリングだけで出てきたものなんです。ギブンとレイジから歌い出しの歌詞は絶対に残したほうがいいというアドバイスを受けて書き上げていきました。私はカリフォルニア生まれではないけど、今の時代──特に私の世代はそういう側面が強いと思うんですけど、SNSが生活の中心にあるから自分が本当にどこで生まれて、どういうキャリアを経てきたのかそんなに重く考えてないんですよね。『どこで生まれて、どういう生き方をしても私の自由』ということがシンガーになる最初のタイミングで一番言いたいことでもありました。デモバージョンにはロックっぽいフックはなかったんですけど、サビでキャッチーな要素がほしいと思ってぶっこみました(笑)。ラップも最初から絶対にやりたいと思ってました。ラップはできるだけ地声の声を活かすことを意識しましたね」
“Love My Distance”はトラップに流麗なピアノが織り交ぜられ、どこかオペラのような響きさえ感じる。
「“Love My Distance”は冒頭のベースから思いついて、そこにトラップっぽいトラックを敷きながらピアノで4コードのループを作って、さらにディミニッシュを弾いたら面白そうだなという感じでオケを作っていきました。歌詞に関しては、最初はハタチになった自分のことを英語で書いていたものがラブソングとして着地した感じですね。歌詞のすべてが自分の実像とは思ってないけど、でも、結局そのときに出てくる言葉がそのままの自分なんだなとこの2曲を作りながら思いましたね」