“夢うらら”2022.9.16 Fri Release
甲田まひる | 2nd Digital EP
Movie
夢うらら Official Music Video
Track List
M1. 夢うらら
M2. ごめんなさい
M3. 夢うらら (Instrumental)
M4. Yume ooh la la.pf
Interview
甲田まひる「夢うらら」 2ndオフィシャルインタビュー
昨年11月、シンガーソングライターとしての1st DIGITAL EP『California』をリリースした甲田まひる。幼いころからジャズピアニストとしての腕を磨き研鑽を積んできた彼女は、中学生のときにローリン・ヒルやア・トライブ・コールド・クエストなど90年代のR&B/ヒップホップに魅了されたことをきっかけに、いつかステージでマイクを持って踊る未来を描き始めた。そして、ハタチを迎えた2021年、彼女は長い楽曲制作期間を経て、その夢の扉を開き、シンガーソングライターとしての音楽人生を歩み始めた。
デビュー作『California』の表題曲は、ヒップホップやロック、K-POPの要素がダークなムードが充満する音像とめくるめく展開の中でキャッチーに躍動した。それは無軌道なようでいながら、その実、甲田の音楽的な自由な閃きとアカデミックな構築力=楽譜に起こせる理論によって絶妙なバランスで形象化されたサウンドスケープであり、歌であり、ラップだった。自由奔放に踊りながら歌え、ジャズアレンジを施したピアノの独奏でも映えることを示し(EPのM3に収録)、さらには弾き語りでも体現できると甲田本人が断言する、まったく新しい唯一無比のJ-POP。そう、シンガーソングライター・甲田まひるは、最初の一歩から独創的で誰にも似ていないポップアーティスト像を示してみせた。
あれから10ヶ月。『California』のリリース以降、再び長い制作期間に入った甲田は、デビュー時も共同制作を行ったGiorgio Blaise Givvnの他に、新たな共同アレンジャーとしてパスピエの成田ハネダ(ナリハネ)を迎え、ここに4曲入りの2nd Digital EP『夢うらら』を完成させた。
「『California』のリリース以降、ピアノでイチから楽曲を作る作業をしてみると自分のピアノのスキルや理論的な部分で向き合わないといけないところがいっぱい出てきて。あらためてピアノを基礎の部分から勉強しつつ、それと並行してDTMでデモ作りをしながらビートを組んだり歌を入れたりしていました。それにプラス、ダンスレッスンもしています。普段は個人でジャズの振り付けをメインにされている先生のレッスンを受けているんですが、もう少しヒップホップをはじめいろんなジャンルのダンスに挑戦したいという思いから、スクールを紹介していただいて、以前よりもダンス練習の時間を増やしています。それもあって前よりは体が動くようになってきた実感がありますね。
“夢うらら”は『California』をリリースした直後にはデモができていて。まず、とにかく元気な曲を出したいと思ったんです。さらにもう少しポップな曲を作りたいというイメージもありつつ、2作目のEPは“California”にあったシュールなイメージをキープしたほうがいいよねという話をチームでしていて。そのバランスを意識しながら完成までもっていきました。」
特定のジャンルの記号性から解き放たれた複合的に展開していくサウンドプロダクションの様相、エキゾチックな匂いも香るフロアライクなビート、不穏さとドリーミーな気配が絡み合いながらリリカルかつポップに解き放たれる歌メロと妖艶にたゆたうラップのフロウ、そしてヴォーギング(マドンナの“Vogue”のMVで世界的に知られるようになったダンサーの腕の動きが特徴的なダンススタイル)をイメージし用意されたドロップパート。“夢うらら”は“California”経てさらに研ぎ澄まされた甲田の比肩なきポップセンスが芽吹いた1曲だ。
「私的には“夢うらら”はJ-POPだと思っていて。この曲はもともとBPM120で作るというテーマを設定したことから始まったんです。そこからチアリーダーが踊るような曲のイメージが浮かんで。たくさんの女の子が出てきて、それを私が率いているみたいな。軸となる4つ打ちはナリハネさんがアイデアを広げてくれました。当初は生ドラムのイメージでトラックにビートを敷いていて、ラップで急に暗いビートに変わるデモだったんですけど、そこの雰囲気を軸にアレンジしてくれて、全体がクラブミュージックっぽくなりました。ナリハネさんは私の意見を尊重しながらアレンジを考えてくれて、すごく頼もしかったです。そして、後半に出てくるVOGUEパートは、もともとそこだけ別の曲のセクションとして存在していたんです。というのも、ダンスレッスンの中でヴォーギング振りを教えていただく機会があったんです。ヴォーギング自体は知っていたものの踊ってみるのは初めてで、私もいつか映像やライブでこれを踊りたいから、そのための曲を作ろう。とピンと来てすぐに制作したんです。でも、たまたまBPM120という部分が一致していたし、“夢うらら”のデモに手を加えていく前に『合体させてみたら面白いかも』となって。なのでナリハネさんに最初にデモを聴かせた段階ではもう合体していたんですけど、もし他の人の曲でVOGUEパートが出てきたらすごい悔しくなると思うんです。という意見を面白がってくれました。
リリックからは、道なき道を歩み始めた高揚感と不安をリアルに歌い、ラップしているような様相がある。高揚感を覚えた次の瞬間に、不安も襲ってくるけれど、それでも──そこには最終的に誰も体現していないポップミュージックをクリエイトしているという矜持さえ感じさせる。
「わりとネガティブな感情や怒りが原動力になっているところがあって。夢とか目標を追いかけるのってそんなきれいなことだけじゃないから。それでもなお、もがくみたいな。そういう強さがあったほうがリアルな歌詞になると思っています。そのうえで“夢うらら”というキラキラしたキーワードがあることで、楽曲全体に不思議なポジティブさが生まれるというか。まずは自分が聴いたら元気になる曲を歌いたいと思うし、人を勇気づける前に自分に言わなきゃいけないことがある気がしていて。それをリスナーの一人ひとりが聴いたときにそれぞれが自分の中でどうやって噛み砕くかだと思うんですよね。だから、歌詞を書くときは常に自分も含めて『一人ひとり』という意識がありますね」
カップリングのM2「ごめんない」はレゲトンなどのフィーリングも感じさせるノリが印象的だ。
「ラテンが好きすぎて、ラテンの曲が作りたいと思ってできた曲です。ちょっと危うい女性のイメージで。デモを作っているときに一日中あなたといたい=〈All day all night〉というフレーズと〈ごめんなさい〉という響きが重なって。表裏一体の危うさを表現した曲になっていますね」
このEPでは前作に続き表題曲のインストゥルメンタル(M3)とジャズアレンジしたピアノの独奏(M4)も聴くことができる。
そして、2022年内から2023年にかけて、甲田まひるはさらに制作スピードを加速させ、コンスタントなリリースを目指しているという。その先にどんな光景が現実のものとなるのか。楽しみにしたい。
「できるだけその時々の自分を表現した曲をすぐにリリースして、すぐに聴いてほしいなと思っています。私はやっぱりポップスを作り続けたいので。今はまだ自由に思いついたことを表現しているという感覚があって、自分が想像しているポップスはこの先いろいろな形で描こうと思っています。自由度を失わないままストレートな表現になったときに私の曲はポップスとしての存在感が大きくなると思うんです。そういう曲を作っていきたいですね。」
インタビュー&テキスト=三宅正一